第2章 文献リスト・文献ノートを作ろう




 OWL第2章では、文献リスト・文献ノートの作り方を説明します。OWL第1章で、せっかく集めて読んだ文献を、あとですぐに役に立つように整理しておきましょう。OWL第2章では、その整理方法について説明します。

(1) 文献リスト・文献ノートは役に立つ
(2) 必要な文献情報
(3) 要約
(4) 引用
(5) パラフレイズ
(6) まとめ



(1) 文献リスト・文献ノートは役に立つ

 集めた論文を整理するための方法として、文献リストと文献ノートをOWLでは紹介します。

 文献リストは、OPACやCD−ROMなどから得た情報をパソコンにデータとしてリストにして残しておくものです。OPAC、CD−ROM、インターネットで検索した文献情報は、フロッピーディスク等に簡単に保存することができます。ここで言う文献情報とは、著者名、発行年数、書籍タイトル、または論文タイトルと雑誌タイトル、ページ数のことです。文献情報を記しておくと、あとで引用文献、参考文献表をつくるときに、効率良くできます。入手した論文コピーにも、すぐに文献情報を記入するようにしましょう。

 また、これらの情報に加えて、各文献の既入手/未入手、文献の所蔵場所を記入すると良いでしょう。既入手/未入手情報は、自分が持っている文献を簡単に知ることができます。文献の所蔵場所は、一度借りた本などをもう一度借りたくなったときに、便利です。

 文献ノートは、読んだ一つの文献に関して、@文献情報、A要約、B引用、Cパラフレイズ、D自分の感想、疑問、をひとまとめにしたものです。文献情報は、文献リストがあるので、簡略式でも良いかまいませんが、要約、引用などがどの文献のものだったかをわかりやすくするために、著者名、論文・本タイトルは必ず記入するようにしましょう。

 要約、引用、パラフレイズは、後にレポート・論文を書く際に本文中に利用することができます。また、後で文献の内容を確認するときに、文献を全部読み返さなくても、自分の要約、引用、パラフレイズを読むことで、確認できるという利点もあります。自分の感想、疑問は、レポート・論文の章立てを作るとき、実際にレポート・論文を書くときに役立っていきます。

 では、次から文献情報、要約、引用、パラフレイズの書き方を、順に説明していきます。









(2) 必要な文献情報

 文献情報は、論文・レポートの最終段階である引用文献、参考文献表をつくるときに、大変重要になります。「最終段階で重要になるなら、まだいいや」と整理しないでいると、後で大変なことになりかねません。というのも、せっかく集めて本文中で要約、引用などの形で利用しても、文献の出典が明確でなければ、その文献は利用できないからです。文献情報の整理を後にまわして、仕上げの段階でどんな文献かわからなくなってしまわないように、文献を集めたときにすぐに整理してしまいましょう。

 文献情報を書くときに必要な情報は、本の場合と論文の場合で異なります。

 まず、本の文献情報を書く場合に必要な情報は、著者名、発行年数、書籍タイトル、出版社名です。本の中から特定の章を取り出すときは、章の著者名、発行年数、章のタイトル、書籍の著者名、書籍タイトル、出版社名、章のページ数になります。日本語の本の場合、背表紙の前のページにこういった文献情報が書かれていることがほとんどです。

 論文の場合は、著者名、発行年数、論文タイトル、雑誌タイトル、雑誌の巻、号、ページ数です。論文の場合、特に忘れないように文献情報を記入しましょう。コピーをとって、文献情報を書かないまま雑誌を返却してしまうと、あとでもう一度必死になって探す羽目になります。

 本や論文が翻訳されたものである場合は、著者名、訳者名、発行年数・・・が必要になります。

 では、具体的な例を見てください。

@ 本の場合・・・

 河野哲也(1998)『レポート・論文の書き方入門 改訂版』慶応義塾出版会
 木下是雄(1990)『レポートの組み立て方』筑摩書房
 小森陽一(1994)「解釈−漱石テクストの多様な読解可能性」小林康夫・船曳建夫編『知の技法 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト』東京大学出版会 p.78−89
 ブルデュー, P.・パスロン, J.-C. 宮島喬訳(1991)『再生産論 教育・社会・文化』藤原書房


A 雑誌論文の場合・・・

 梅津彰人(1995)「キャンパスの文章−卒業論文」『国文学 解釈と教材の研究』, 40,(2), 71−74.
 須賀晃一(1993)「レポート・卒業論文の書き方」『福岡大学経済学論叢』, 37, (3), 411−457.
 中村忠(1998)「論文の書き方」『創価経営論集』, 23, (1), 59−66.


 以上は日本語の文献の場合でした。英語の文献の場合もほとんど同じですが、本の場合には出版地名の情報が必要になります。出版地の情報は、書名と出版社名の間に書きます。

 ではまた例を見てみましょう。

B 英語の本の場合・・・

 Brislin, R. & Yoshida, T. (1994). Intercultural communication training: An introduction. Thousand Oaks, CA: Sage.
Gudykunst, W. & Kim, Y. (1984). Communicating with strangers: An approach to intercultural communication. New York: Random House.
 House, J. S. (1985). Barriers to work stress: I. Social support. In W. D. Gentry, H. Benson, & C. J. deWolff (Eds.), Behavioral medicine: Work, stress, and health (pp. 157-178). Dordrecht, Netherlands: Martinus Nijhoff.


C 英語の論文の場合・・・

 Bennett, M. J. (1986). A developmental approach to training for intercultural sensitivity. International Journal of Intercultural Relations, 10, 179-196.
 Fontaine, G. (1986). Roles of social support systems in overseas relocation: Implications for intercultural training. International Journal of Intercultural Relations, 10, 361-378.
 Oberg, K. (1960). Culture shock: Adjustment to new cultural environments. Practical Anthropology, 7, 177-182.


 英語の本や論文の場合、普通APAというスタイルで文献情報が書かれます。しかし、ピリオドの打ち方や下線の引き方など、細かい文献情報の書き方については、OWL第5章 引用・参考文献で詳しく説明します。ここでは、必要な情報を見落とさず、記入することを心がけましょう。英語の本の場合、文献情報は中表紙をめくったところに記載されています。

では、実際に例題、練習問題で、文献情報の書き方を練習しましょう。

【例題。練習問題】

 文献情報を書くときに必要な情報は、理解できましたか?文献リスト、または文献ノートに以上の文献情報をしっかり整理しておけば、あとで引用文献、参考文献表をつくるときに慌てなくてすみます。文献情報を書くときの書式については、OWL第5章 引用・参考文献で詳しく取り上げます。

 では次に、要約の書き方を説明します。









(3) 要約

 要約とは、オリジナル論文のあらすじを自分の言葉でまとめることです。要約するときは、細かい情報は省き主要で重要な情報についてまとめていきます。具体的には、雑誌論文なら5行から10行程度に、本なら10行から15行程度にまとめるようにしましょう。本は分量が多いため長い要約になりがちですが、本の流れと筆者の全体の主張を、できるだけ簡潔に要約しましょう。

 要約をするときのポイントは、次の4点です。

@ 誰が、何について、どのように調査・研究し、どのような結果を得、どのような考察をしたかを中心に要約する。
 文系、理系に関わらず、研究論文は著者が行った研究の情報が書かれています。要約では、細かい研究結果よりも、その研究に関する基本的な情報をまとめるようにしましょう。

A 必ずオリジナル文献に書かれている情報に沿うこと。
 短くまとめるからと言って、オリジナル文献に書かれていないことや著者の主張と異なることを要約に書いてはいけません。要約を書き終わったら、自分が書いた要約とオリジナル文献を読み比べて、間違った情報や著者の主張と異なることを書いていないかどうか、確認しましょう。

B 細かい情報は自分の言葉で短くまとめる。
 研究、調査の細かい手続き、詳しい研究結果などは、要約の内容から省きます。例えば、「調査対象者は、A大学男子30名、女子30名、B大学男子32名、女子29名で、・・・」と書かれている場合を考えてみましょう。この情報は要約には詳しすぎます。大切なのは、調査対象者が大学生で、男女合わせて121名ということです。よって、「調査対象者は、大学生男女合わせて121名で、・・・」と要約すれば良いでしょう。また、その論文の特徴として、A大学とB大学の比較を行っているのであれば、「調査対象者はA大学学生が60名、B大学学生が61名で、・・・」としても良いでしょう。

C オリジナルの文献が長い場合、著者の主要な主張と目次(見だし)に沿ったあらましを書く。
 1冊の本を要約するときなど、オリジナルの文献が長い場合、まずその文献で一貫して著者が主張していることを見つけるようにします。文献はその主張をいろいろな角度から検証、考察しているはずです。本の目次や論文の見出しは、著者の結論付けの方向を表していることが多いので、目次や見出しに簡単な説明を加えることによって、要約を進めるとまとめやすくなります。

 要約をするためには、オリジナル文献をしっかり理解している必要があります。逆に、理解しないまま要約を書こうとしても、なかなか書けないと言えます。要約をすることは、あなた自身がその文献を理解する手助けになるのです。

 では、例題と練習問題で、要約の仕方を身につけましょう。

【例題。練習問題】









(4) 引用

 引用とは、オリジナルの文献に書かれている文を、一字一句同じように写し取ることです。(3)要約は、オリジナル文献のあらすじを自分の言葉で短くまとめる作業でしたが、今回はいわば「ピンポイント」です。

 引用するときは、次のことに注意しましょう。

@ とにかくオリジナル文献に書かれていることをそのまま写す。
 例え、オリジナル文献の字が間違っていたとしても、そのまま写さなければなりません。文献ノートに引用を書く場合、引用したい個所を含んだ文章全てを書き写しておくと、あとで見なおしたときにオリジナル文献に戻りやすいという利点があります。

A 引用する個所は、長くても10−15行程度にする。これ以上長くなる場合は、要約、またはパラフレイズ((5)で説明)をすること。
 あまり長い引用はしないようにしましょう。引用はあくまで「ピンポイント」であるから効果的なのです。1ページ丸ごと写すのではなく、そのページの最も印象的な部分のみを引用として書き写し、あとの部分は要約、またはパラフレイズをするようにしましょう。

B 引用した言葉、文章は「」をつけ、引用した個所のページ数を明記しておく。
 引用した個所には必ず「」をつけましょう。自分が要約したり、パラフレイズしたりしたものと区別がつかなくなるからです。またいつでもすぐにオリジナル文献に戻れるように引用した個所のページ数を必ず明記しておくことが必要です。

 要約に比べると、引用は「楽」ですね。この楽さに甘えないようにしましょう。

 では、例題、練習問題で引用の仕方を身につけましょう。

 【例題。練習問題】









(5) パラフレイズ

 パラフレイズとは、文章や段落を、文意を変えずに自分の言葉で書きなおすことです。もう一度要約の特徴を思い出してください。要約は、文献の全体のあらすじを自分の言葉で書きなおすことでしたね。この要約に比べてパラフレイズは、文章や段落そのものを自分の言葉で書きなおす作業になります。要約よりも詳しく特定の情報を取り出したいときに用います。しかし、引用のように、オリジナルの文章を写すわけではありません。

 具体的な例を一つあげて、要約、引用、パラフレイズの違いを比べてみましょう。

例:福島泰正(2002)「『ぜひ』の機能と使用条件について」『日本語教育』,113, 24−33.

 要約:福島(2002)は、副詞「ぜひ」の使用条件について、<作業指示性>と<猶予性>という二つの観点から命令文、依頼文、勧誘表現を分析することによって考察している。その結果、副詞「ぜひ」は、聞き手の自主性・主体性を意図しない命令文では使われず、また<作業指示性>が強く<猶予性>がない依頼文や勧誘表現でも使われないことを明らかにした。さらに、相手からの申し出を受諾・承諾する際に使用される「ぜひ」は、話し手の積極性を示す機能があり、配慮を表す待遇表現として使用されていると主張している。

 引用:「つまり『ぜひ』は、円滑な人間関係を築く上で必要な(とりわけ、それほど親密でない相手に対しての)配慮を表す待遇表現としての役割をも果たす副詞だと言える。」(p.31)
 パラフレイズ:つまり『ぜひ』は、副詞の中でも相手に配慮を示す待遇表現として働く副詞であり、特に親密度の低い相手と良好な人間関係を形成するときに必要になる。

 上の例で、パラフレイズの特徴はわかりますか?引用されている文章の文意とパラフレイズされた文の文意はほとんど変化していませんが、文章の構造、選択された語句が異なっていますね。また要約はオリジナル論文の全体像を説明しているのに対し、パラフレイズはオリジナル論文のある部分だけを抜き取って自分の言葉でまとめています。このように論文全体を短くまとめるという要約、オリジナルの文章をそのまま抜き出す引用とは異なり、パラフレイズは文章そのものを自分の言葉に変化させるものなのです。

 <要約、引用、パラフレイズの違い>
  • 要約:元の論文に書かれている主張を中心に、論文全体や該当箇所の全体をまとめる。オリジナルの文章と内容は一致していなければならない。
  • 引用:元の論文に書かれている文章を一字一句書き写す。例え誤字脱字があっても原文のまま書き写す。
  • パラフレイズ:元の論文に書かれている文章を自分の言葉に置きかえる。原文と内容は一致していなければならない。


 ではパラフレイズの仕方を順を追って説明しましょう。

@ パラフレイズをしようとする文章や段落を完全に理解できるようになるまで何度も読む。
 パラフレイズを行うためには、まずはパラフレイズしようとする文章を完全に理解していなければなりません。意味が不明確な単語はありませんか?文章全体の意味はしっかり把握できましたか?完全に理解できるまで、根気良く何度でも読みましょう。

A 文中の言葉を他の言葉に置きかえる。
 文章が理解できたら、今度は文中の言葉を意味が似ているほかの言葉に置きかえる作業をします。ただ、全ての語句を違う言葉にかえなければならない、ということではありません。例えば上の例を見て下さい。「配慮」と「待遇表現」という言葉は引用文と同じ言葉をパラフレイズでも使っています。これらの語句は専門用語、もしくはその分野(上の例の場合は日本語教育の分野)で特別な意味を持って一般的に使われている語句については、引用文に書かれている語句を使用します。  しかし、そうではない語句についてはオリジナル文献に書かれている語句とは違うものに置きかえるようにします。この作業はかなり大変です。辞書や自分の知っている語彙を総動員して頑張りましょう。

B 文意を変えないように注意しながら、文法形態や文の構造をかえて書く。
 語句の変換が終わったら、ようやくパラフレイズを書き始めることができます。しかし、ただ語句をかえただけでは不完全です。文法形態や文の構造もかえましょう。上の例では、引用文で( )書きになっている部分を( )からはずしています。また、引用文では「円滑な・・・役割をも果たす」という部分が「副詞」にかかっていますが、パラフレイズ文では途中で区切って、2つの文を読点(、)でつなげています。  この文法形態や文の構造をかえるとき、オリジナル文の文意までかえてしまわないように注意しましょう。

C 自分が書いたパラフレイズとオリジナルの文章、段落を読みなおし、文意が変わっていないか、重要な情報を書き漏らしていないか、引用に近くなっていないかをチェックする。
 パラフレイズを書き上げることができたら、オリジナル文とパラフレイズした文を読み比べます。チェックポイントは3つです。

1) オリジナル文の文意を変化させてしまっていないか。
2) オリジナル文に書かれている情報を書き漏らしていないか。
3) 語句の変換や文構造の変換があまりされておらず、引用に近くなっていないか。

 これらの点をチェックして、当てはまるところがあれば直しましょう。直せたらもう一度チェックして、良ければ完成です!

 パラフレイズは、日本語を母語としない方にとって、かなり大変な作業です。しかし、パラフレイズは実際に論文・レポートを書く際に大変有効な方法です。ここで頑張って身につけましょう。

 【例題。練習問題】









(6) まとめ

 OWL第2章では、文献リスト、文献ノートの作り方を詳しく説明してきました。

 文献リストは、文献情報を正確に記録しておくものでしたね。文献情報の書き方はしっかり身につきましたか?文献情報だけでなく、自分が文献を管理しやすいよう、いろいろ工夫してみましょう。

 文献ノートには、文献情報、要約、引用、パラフレイズを書きます。要約、引用、パラフレイズの仕方は理解できましたか?OWL第2章では取り上げませんでしたが、文献ノートには、文献を読んだ自分の感想、疑問点などもどんどん書きこんでいきましょう。実際に論文・レポートを書くときに、必ず役に立つはずです。

 ではまとめとして、文献リスト、文献ノート作成の例題、練習問題をやってみましょう。

【例題。練習問題】









 さあこれであなたの文献リスト、文献ノートができあがりますね。
 次はいよいよ、OWL第3章「レポート、論文を書く」です!出来上がった文献リスト、文献ノートを活用しながら、レポート・論文をまとめていきましょう!




 



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